Book Guide (in Japanese)

はじめに

参考のために,物理に関連した本についてのリストを以下にまとめました. いろいろな本を挙げておきましたが,物理の研究をするために以下の本の大半を読破する必要などまったくないことを 初めに注意しておきます. 実際,私は専門書を読むのが苦手で,以下に挙げた本の中でちゃんと読んだのは1割以下だと思います. そのため,以下の情報は参考程度にして,本屋や図書館などで自分で眺めてみて,読むかどうかを決めてほしいと思います. また,物理に関する本については,他にも

のページが参考になると思います.

シリーズもの

  • David Tong: Lectures on Theoretical Physics
    ケンブリッジ大のDavid Tongの講義ノート(英語)がまとまっているページ. 理論物理のほぼすべての分野をカバーしており,記述は現代的で,明快かつおもしろい上,分野によっては最新の知見まで扱われている. 新しい分野を勉強・研究し始めるために初めに読む文献として非常に役立つと思う.
  • 岩波講座 現代物理学の基礎 [第2版] (全11巻)
    1978年に出版された岩波講座のシリーズもの. 格調高く,記述もちょっと古くなっているために少し読みにくくなっている巻もあると思うが, 最近の教科書ではあまり載っていないことまでしっかりとした記述があり,いまだに参考になる. とくに 『量子力学II』の江沢 洋さんの執筆した量子力学の基礎, 『統計物理学』の久保 亮五さんと橋爪 夏樹さんの執筆した線形応答理論, 『物性II』の中嶋 貞雄さんが中心となって執筆した素励起のあたりは他書にはないよさがある.
  • ランダウ・リフシッツ 理論物理学教程 (全10巻)
    ノーベル物理学賞受賞者のランダウと弟子筋・共同研究者のリフシッツとピタエフスキーにより出版された教科書. ランダウの冴え渡った物理的直感により,ほぼすべての物理分野・現象を説明しきっている. 50年以上前の本ではあるが,扱われているほとんどの内容についてほぼ完全に正しいことが書かれているが, ちゃんと読んで消化するのはかなり大変であると思う(ちゃんと消化すると,いまでも論文になるような研究の種が含まれている). 日本語訳は残念ながら一部を除いて絶版になっているが,英語版は購入可能.

量子力学

  • 『量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために』, 清水 明, サイエンス社 (2004)
    量子力学の理論的な構造を非常に明瞭にまとめてある本. 著者の個性が色濃く出ており,いわゆる普通の量子力学の教科書に載っているような「シュレディンガー方程式を解く訓練」などはほとんど扱われていない. そのため,1冊目に読む本として適当なのかはわからないが,「量子力学がどういう理論なのか」が明快にまとまっているため, 「シュレディンガー方程式は解けるようになったけど,結局量子力学って何なんだ?」ってなったときに読むと, 学ぶことが多い.
  • "Modern Quantum Mechanics; Third Edition", J. J. Sakurai, Jim Napolitano (2020)
    しっかりとした量子力学の基礎を学ぶために評価の高い桜井 純(J. J. Sakurai)さんの教科書. 桜井 純さんは1982年に49歳の若さで亡くなってしまったが,最近になって共著者が加わり改版されたようである. 単に計算ができるようになるという感じではなく,導入部から量子力学の基礎が論理が明快な形で提示されているようで, さらに清水さんの本では扱われていないような角運動量,対称性などの標準的で大事な話題も扱われている. ちなみに旧版の訳にはなるが,日本語訳も出ている.
  • 『径路積分による多自由度の量子力学』崎田 文二, 吉川 圭二, 岩浪書店, (1986)
    経路積分形式の量子力学に関して,基礎から応用まで幅広い話題がコンパクトにまとまっている. タイトルには量子力学とあるが,ほとんど経路積分形式の場の理論の教科書と言ってよいような気がする.
  • [Under construction]

統計力学

  • 『統計力学I・II』, 田崎 晴明, 培風館 (2008)
    量子統計力学に基礎を置いた,統計力学の非常に丁寧な教科書. 統計力学の具体的な計算だけでなく,著者の信念・専門に裏打ちされた統計力学の基礎が熱く語られていて,よい統計力学の入門書だと思う.
  • 『非平衡統計力学』, 香取 真理, 裳華房 (1999)
    古典系の非平衡統計力学に関する入門的な教科書. かなりコンパクトではあるが,2000年以前に確立されている非平衡統計力学の基礎について,大事なことがちゃんと説明されている.
  • 『相転移・臨界現象とくりこみ群』, 高橋 和孝, 西森 秀稔, 丸善出版 (2017)
    日本語で読める臨界現象とくりこみ群に関するしっかりした教科書. 内容としてはそこまで新しいというわけではなく,後述するGoldenfeldの本やShang-Keng Maの本などに多くがまとまっていたが, 日本語で記述がまとまっているという意味では貴重かもしれない.
  • 『現代物理学の基礎 5 統計物理学』, 戸田 盛和, 斎藤 信彦, 久保 亮五, 橋爪 夏樹, 岩波書店 (2016)
    「シリーズもの」の欄で挙げた1978年に出版された岩波書店『現代物理学の基礎 [第2版]』の5巻の復刊本. 線形応答理論を発展させた久保スクールの人々が書いた箇所は,やはり味わい深い記述だと思うが, 論理がちょっと追いにくい記述になっている気もする. また,残念ながら相転移の部分はくりこみ群などの1970年代の華々しい進展はフォローされていない.
  • "Lectures On Phase Transitions And The Renormalization Group", Nigel Goldenfeld (1992)
    くりこみ群の方法について,著者独自の導入・考え方が非常に明瞭に説明されていて,とてもおもしろい. ただ,後半では少し独自色が強いテーマに入っている部分もあるので,簡潔に摂動的なくりこみ群の計算法だけを学びたい人は他の本を参考にした方がよいのかも.
  • "Hydrodynamic Fluctuations, Broken Symmetry, and Correlation Functions", Dieter Forster (1975)
    流体力学や南部・ゴールドストーンモードなどを相関関数で扱う方法がまとまっており,非常にすぐれた本. ただ,時代のためか,タイプライターフォントなので読むときには少しフラストレートする.
  • "Modern Theory Of Critical Phenomena", Shang-Keng Ma (1976)
    臨界現象に対するくりこみ群の方法の定式化がほとんど完成した時期に出版された講義ノート的な教科書. 説明が非常に明瞭で,イプシロン展開やラージN展開などの具体的な解析について載っていて非常によいのだが, Forsterの本と同じくタイプライターフォント.
  • "Principles of Condensed Matter Physics", P. M. Chaikin, T. C. Lubensky (2000)
    平衡系のくりこみ群から流体力学やトポロジカル欠陥の話まで,広い話題を扱った現代的な凝縮系物理学の教科書. ただ,量子論が必要な固体物理には意図的にあまり踏み込まないようにしており, 途中計算などもそこまで丁寧に載っているわけではない気がするので,初学者が読みやすいのかは微妙かも, 吉岡書店から日本語訳も出ていたが,残念ながらいまは絶版になっているっぽい.
  • 『非平衡と相転移―メソスケールの統計物理学― [新装版]』, 川崎 恭治, 朝倉書店 (2022)
    非平衡統計力学に関して世界トップの研究をやっていた川崎 恭治さんの本. 教科書というよりは,本人の研究を軸に統計力学の各話題を一気に解説している総説みたいな本. 載っている内容は現代でも最先端の結果だと思うが,記述が非常に圧縮されているため読むのは非常に困難で, 解読するといまでも論文になるような話が載っているように思う. 2000年に出版されていて版切れになっていたが,2022年に新装版が出たようである.

場の量子論 (高エネルギー物理寄り)

  • 『場の量子論: 不変性と自由場を中心にして』坂本 眞人, 裳華房, (2014)
    素粒子論などの学習を目的に,相対論的な自由場の量子論について,これ以上ないくらい丁寧に解説した「読める」場の量子論の本. 相対論的場の量子論を日本語で学びたい人は,まずこの本を読むことを薦める.
  • 『場の量子論(II): ファインマン・グラフとくりこみを中心にして』坂本 眞人, 裳華房, (2020)
    上の本の続巻.経路積分量子化とファインマン・ダイアグラムを用いた摂動論,くりこみなどに関して丁寧に説明している. 修士1年の夏くらいまでにこの本の内容をしっかりと理解できていたら,研究にもスムーズに入っていけるように思う.
  • "Quantum Field Theory, Second Edition", Franz Mandl, Graham Shaw (2008)
    新潟大学原子核理論グループの課題研究で読むことが多い本(2巻に分かれた日本語訳が出ている). ざっくりと,QEDの散乱断面積をとにかく計算できるようにする(前半,日本語訳1巻)と,それをQCDなどにも広げていく(後半,日本語訳2巻)に分かれており, 非常に丁寧な場の理論の入門書であるらしい(私は読んだことがないので,詳しくは研究室の大学院生に聞いてみてください).
  • "Quantum Field Theory: Lectures of Sidney Coleman", Sidney Coleman (2019)
    ノーベル賞こそ取り逃したものの,場の理論に関してとてもよい研究成果を残したSidney Colemanの講義ノート. 1980年代(?)に行われたハーバード大学の講義を文字起こしして読める形のものに編集したものだが, Colemanは講義が非常に上手だったようで,生き生きとした(時にはふざけた)語り口でいまも使えるような内容が載っていて,読んでいてとてもおもしろい.
  • "Quantum Field Theory and the Standard Model", Matthew D. Schwartz (2013)
    相対論的場の理論と素粒子論の教科書として,バランスよく様々なトピックスが扱われている. 全部読むのは大変なように思うが,場の理論の基本が身についていたら「研究で必要になった話題について拾い読みをする」といった使い方もできて便利かと思われる. 日本の大学の素粒子論研究室のゼミで最近使われることが多いという噂.
  • 『ゲージ場の量子論 I,II』, 九後 汰一郎, 培風館, (1989)
    ゲージ場の量子論に関する本格的な教科書.「(ゲージ)場の量子論を使って物理現象を理解する」というより, 「(ゲージ)場の量子論とは理論的にどういうものなのか」を理解することに重点が置かれているように思う. また,QEDやQCDのようなゲージ場の量子論に関する演算子形式(とくにBRST formalism)に関しては,洋書でもほとんどないくらい詳しい.
  • "An Introduction To Quantum Field Theory", Michael E. Peskin, Daniel V. Schroeder (1995)
    ひと昔前(だいたい2000年代)の素粒子論研究室のゼミでよく使われていたという教科書. QEDの散乱断面積をとにかく計算できるようにしてから,経路積分形式や統計物理における臨界現象との関係,QCDなどの話題もカバーするという教育的な内容. なにはともあれ場の量子論の簡単な摂動計算を身につけたいというのにはよいかもしれない.
  • "The Quantum Theory of Fields Volume 1-3", Steven Weinberg (2005)
    電弱統一理論に関する業績でノーベル賞を取ったSteven Weinbergの書いた壮大な本. 実際に場の量子論を使って素粒子論の研究を押し進めたWeinbergならではという,めちゃめちゃいいことが書いてある(らしい)が, 読み通すのは大変そう.
  • "Quantum Field Theory: An Integrated Approach", Eduardo Fradkin (2021)
    場の量子論の標準的な内容から少し発展的な内容まで,広範なトピックをカバーした最近の教科書. Eduardo Fradkinは場の理論を用いた物性物理の研究をしており,「場の量子論 (物性物理寄り)」の欄の "Field Theories of Condensed Matter Physics" という本も書いているが, そちらの本に比べると,この本は場の理論自身にフォーカスしていろんな話題を網羅的にまとめた内容になっている.
  • "Quantum Field Theory: From Basics to Modern Topics", François Gelis (2019)
    現代的な観点から場の理論の導入を最短経路で行って,発展的なトピックスまでカバーしているの最近の教科書. 2PI形式,on-shell recursion, worldline形式など,研究現場で現在も使われている方法について取り扱っており,関連する研究を行う際の導入にも使えそうに見える.

場の量子論 (物性物理寄り)

  • 『場の理論』, 武田 暁, 裳華房 (1991)
    場の理論の考え方の基礎を簡単に紹介している入門書. 本格的な学習を始める前にとりあえず1冊目に読んでみるのに適しているかと思う. 対称性の自発的破れやヒッグス機構などについても軽く触れられている.
  • "Quantum Field Theory for the Gifted Amateur", Tom Lancaster, Stephen J. Blundell (2014)
    場の量子論の方法は,素粒子論・原子核理論だけでなく,物性物理学や統計物理学にも適用されている. この本は,相対論的場の理論だけではなく,物性・統計物理などへの応用などの話題がバランスよく,わかりやすく説明されていると思う.
  • 『物性論における場の量子論』, 永長 直人, 岩波書店 (1995)
    場の量子化や経路積分などの基本的な事項の復習から始まって, 相転移,超伝導,量子ホール効果など物性物理の幅広い話題について, 場の理論を用いた解析法が明瞭でコンパクトにまとめられている. 場の理論をある程度学んだ人が物性物理の勉強をするのにとてもよい本だと思う. ちなみに,続刊の『電子相関における場の量子論』は 1次元量子スピン系や強相関電子系など,もう少し発展的な話題が扱われている.
  • 『現代物理学の基礎としての場の量子論』, 磯 暁, 共立出版, (2015)
    量子力学から始まり,フェルミ液体や超流動などの物性物理の話題もホーキング放射などの高エネルギー的な話もいろいろ取り扱われていて,おもしろい本. ただ,少し記述がむずかしめなのと,摂動論とくりこみはほとんど扱われておらないため,別の本で学ぶ必要がある.
  • "Methods of Quantum Field Theory in Statistical Physics", A. A. Abrikosov, L. P. Gorkov, I. E. Dzyaloshinski (1963)
    通称「AGD」と呼ばれる,物性物理における場の理論・グリーン関数法の教科書. 物性分野の場の理論の定番の教科書で内容もよいと聞くが,記述はコンパクトすぎで読むのは大変と聞く.
  • "Quantum Theory of Many-Particle Systems", Alexander L. Fetter, John Dirk Walecka (1971)
    「AGD」で扱われている内容がだいたいカバーされていて,かつ説明が冗長になって読みやすくなっているとの本. 読める「AGD」と呼ばれていたりもするらしく,物性分野では結構読まれていたのだと思う.
  • "Condensed Matter Field Theory", Alexander Altland, Ben D. Simons (2013)
    場の理論を使った最近の凝縮系物理全般を扱う教科書. 非平衡系の話なども含めて最近のことまで非常にいろいろな話題が載っているが, あまり計算が詳しく載っていない気がするので,初学者が読むのに適しているかは微妙かもしれない.
  • "Field Theories of Condensed Matter Physics", Eduardo Fradkin (2013)
    物性物理に関して発展的な話題まで扱われている,比較的プロ向けな感のある教科書. 新しく研究しようとする分野を勉強するときに参考になるように思う.
  • "Quantum Field Theory of Many-Body Systems", Xiao-Gang Wen (2007)
    トポロジカル物質の数理的な研究に関して,トップ研究者であるXiao-Gang Wenが書いた教科書. 前半は他の本でも扱われる標準的な話が非常にコンパクトにまとまっているが, 後半のトポロジカル物質まわりの話は著者ならではの他書では読めないような内容が載っているように思う(が,読めるように書かれているのかはわからない).
  • "Quantum Phase Transitions", Subir Sachdev (2011)
    統計力学におけるくりこみ群のような基本的な手法から始まって,量子相転移・量子臨界現象に関する幅広い話題をカバーしている本. 非フェルミ液体などの発展的な話題まで扱っていておもしろそう.

物理数学

その他,おもしろい本

  • 『量子力学と私』, 朝永 振一郎, 岩波書店 (1997)
    物理の話題も含まれる朝永 振一郎さんのエッセイ集. ハイゼンベルクのところに滞在している最中の様子を綴った『滞独日記』には, ノーベル賞を取ったような人であっても研究成果が出ない状況でいかに打ちのめされているか, 人間的な様子が赤裸々に語られているので,ぜひ読んでみてほしい. また,量子力学の不思議さを演劇のように見せてくれる『光子の裁判』も非常におもしろい.
  • 『科学コミュニケーション』, 岸田 一隆, 平凡社 (2011)
    ある事件をきっかけにして科学コミュニケーションに関して深く考えさせられるようになった筆者が, その考えをしっかりとした形に提示していて,考えさせられるとてもよい本. 科学コミュニケーションに関する欧米と日本の違いなどに関する筆者の見解などもおもしろい.
  • 『龍雄先生の冒険』, 内山 龍雄 ほか, 窮理舎 (2019)
    重力理論も含む形でゲージ理論を一般論として構築した内山 龍雄さんの文やエピソードをまとめた本. 内山 龍雄さんの非常に豪快なエピソードがとてもおもしろい.
  • 『電磁気学を考える』, 今井 功, サイエンス社 (1990)
    流体力学の研究者であった今井 功さんが電磁気学について自分でゼロから考え直して,その内容を解説した本. 標準的な電磁気学の教科書とはまったく異なり,電気力線・磁気力線の性質と保存則を基礎に置いて マクスウェル方程式やいろいろな電磁気現象を導いたりしていて,おもしろい. 応力テンソルを基礎に進めるあたりは流体力学研究者らしさが全面に出ている. 残念ながらいまは絶版になっているようである.

作文・プレゼン技術など

講義動画など